七つ森書館 | 小さなアリは巨象に挑む

私たち七つ森書館はスタッフ5人の小出版社で、『高木仁三郎著作集』『原子力市民年鑑』『自然エネルギー白書』など脱原発系の本を中心に広く社会の問題を考える本を出版してきました。

3.11後の時代にあって注目をあつめる出版社だと自負しています。

昨年から「ノンフィクションシリーズ“人間”」の刊行を開始しました。

ドキュメンタリーの良書を復刊し世に広める企画です。

監修・解説は評論家の佐高信氏で、すでに6冊を発行しています。

このシリーズに『会長はなぜ自殺したか──金融腐敗=呪縛の検証』(読売新聞社会部。1998年新潮社刊、2000年新潮文庫)を入れようと企画し、2010年12月から読売新聞社と交渉を始めました。

交渉は順調に進み、著者名を「読売社会部清武班」とすることも合意し、2011年5月9日に出版契約を結んだのです。本書の取材記者もつとめた読売新聞社会部次長(当時)が交渉の窓口となって読売新聞社の法務部門と協議した上で結ばれた出版契約です。

 その半年後に、清武氏の内部告発です。2011年12月1日、読売新聞社七つ森書館に「出版契約を解除したい。補償はお金でする」と申し入れてきました。

私たちは「良書を復刊するのが『ノンフィクションシリーズ“人間”』の目的です」と理解を求めました。

読売新聞社代理人同士の交渉もうまくいかないと見るや「出版契約無効確認請求事件」として東京地裁へ提訴しました。2012年4月11日のことです。

 読売新聞社の主張は「読売新聞社において、出版契約は局長が了解・決定するのが通例であるが、今回はそのような手続きが実行されていなかった。権限を有していない社会部次長が署名しているから無効である」というものです。

出版契約にいたるプロセスをまったく無視しているばかりか、読売新聞社内の規則にすぎないものを社会一般の論理と見せかけて押し通すものにほかなりません。

出版差し止め訴訟へ持ち込めなかったのです。

 巨大メディアである読売新聞社が、小出版社の七つ森書館を訴えることによって出版を妨害したのです。

多大な時間と訴訟費用の浪費を迫り、自らの主張を押し通そうとするものです。

われわれジャーナリストにとって社会的正義は何よりも重く、言論・表現の自由は社会的正義を守り抜くためにあることを忘れてはなりません。

 この数十年で、どれだけの巨大企業が膨大な利潤を奪っていったことでしょう。

どれだけ多くの貧困層が生まれていったことでしょう。

このような社会の矛盾を監視していくのがジャーナリストの眼なのです。

清武氏は本書執筆中に、経営陣に対して「おかしいじゃないですか」と叫んだ社員の声が忘れられないといいます。

私たちアリのように小さな存在が、巨象のように大きな読売新聞社に対して、おかしいことはおかしいと言って誤りを正していくことが重要だと思うのです。

少年少女のような考え方かもしれませんが、私たちは少年少女時代の美しい心を忘れません。

   株式会社 七つ森書館  代表取締役 中里英章