がれき問題、廃棄物処分場問題(工学)の専門家から見解が届きました | ナカヤマヒトシ通信

以下、転送します。
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震災瓦礫問題、先日の市議会で反対の立場で意見を表明しましたが、新潟大学工学部で廃棄物処分場と環境汚染の問題に取り組んできた専門家が、御自身の見解を送って下さいました。

県政記者クラブにお知らせしたとのことで、したがってここでの公表も了承していただいています。

僕は以前から述べているように、震災瓦礫=放射能汚染と断定的に決めつけることには違和感がありますが、安全性の検証が不十分であることは間違いありません。
また、そもそも瓦礫キャンペーンのいかがわしさやおかしさも次第に明らかになっています。(詳しくは3/16の反対討論記事へ)

今回の資料は、瓦礫問題や廃棄物の問題(放射能にとどまらず、私たちの社会とゴミのありようそのものにも関わる)を考えるにあたって、非常に参考になります。
例えば、処分場周辺で医薬品濃度が高くなっているとの研究結果。
これは検査基準項目にはないので行政的・社会的に問題になってはいないとのことですが、医薬品が微生物に及ぼす耐性や変異などさまざまな影響を考えるとそれ自体も恐ろしいし、今回の放射能問題で言えば、「漏れる」という当然の結果を示していると言えます。

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2012年3月29日
震災がれきを受け入れる前に
新潟大学工学部建設学科・教授 高橋敬雄(都市工学・水質工学)

 東日本大震災で生じた膨大な量のがれき(約2,500万トン、我が国一般廃棄物年間発生量の半分)の受け入れが県内5市で検討されている(註1)。
長く、県内廃棄物処分場(埋立地)による水と土の汚染を調査してきた研究者として、焼却以降の問題点について幾つか指摘したい。

 まず試験焼却について。
がれきの種類は多々あり一様には決まらない。
どういう順番で焼却するかが被災県から提案されてもいて(註2)、当初と今後では搬入されるがれきの内容が変わってくる。
したがって受け入れに先だっての試験焼却とその結果出されるであろう安全宣言は、一時(いっとき)しか意味がない。

 がれきの焼却は体積の減少が最大の目的で、メタンガスの発生と自然発火・類焼の防止、病害虫の発生防止などがこれに次ぐ。
そこで問題の第二だが、がれきの種類が違えば焼却による体積の減少も様々で、体積の減少量に応じ焼却灰の放射線量も違ってくる。
放射性核種(核種から放射線が発せられる)の量は焼却では「減らない」ので、仮に体積が15分の1になれば(註3)、放射線濃度は15倍になる。
がれきの水分と可燃成分がもっと多ければ、焼却によって水分は蒸発し可燃成分は燃えてしまうので、体積は更に減り濃度は更に高くなる(註4)。
自主的な受け入れ基準値(100ベクレル/kg)を設けても、焼却後のがれきそのものの基準値を決めないのでは意味をなさないということだ。
一般ゴミと併せた焼却後の基準値では、一般ゴミを混ぜればいくらでも放射線量は減らせるから、全然歯止めにならない。
がれきを単独焼却した場合の自主基準値が明示されるべきで、これが国の基準の8,000ベクレル/kgなら入口を厳しくする意味がない。

 第三に、焼却灰を埋立処分地に捨てても、放射性核種はそこに封じ込められない。
20日新潟日報で報道された5市の埋立処分地は、長岡市栃尾を除きいずれも屋根がない。
屋根がないと年間1,800ミリ程度の雨が埋立地に降り注ぎ、これがゴミの間を通り抜け汚水になる。
廃棄物そのものに由来する汚水の量はごくわずかなものだ。
一般廃棄物埋立地の形式は管理型と言われ、?底部に防水シートを敷き汚水の拡散を防ぎ、?集めた汚水の浄化施設を設けることが法(廃棄物処理法)で義務づけられている。
 しかし既存の浄化施設で除去出来る放射性核種は一部にとどまる。
濁りが除去される際に随伴して除去される程度だろう。
がれき受け入れを予定する自治体は、既存のしつらえで除去出来るとするなら根拠を、出来ないならどうやって除去するかを、明示してほしい。
 ただ筆者は、この、埋立地内への封じ込めに悲観的である。
新潟市赤塚埋立地の周辺水路の医薬品濃度は他地点に比べ顕著に高い(註5)。
過去に新聞でも、佐渡市一般廃棄物処分場からの汚水漏出が報じられている(註6)。
産廃埋立地が多く立地する黒川流域(信濃川の支流)は、土壌中のダイオキシン濃度、河川水中のビスフェノールA濃度が顕著に高い(いずれも筆者研究室の調査)。
がれきの焼却灰が県内の一般廃棄物処分場に捨てられれば、微量の放射性核種が場外に流出するのは必定で、既に各地で生じ報じられているように、特定の地点に集積し発する放射線がまず問題になることが今から案じられる。

 最後に、がれき受け入れを検討している自治体は、中越地震中越沖地震の経験を踏まえた上での対応なのか問いたい。
地震では大規模な地盤改変があり、廃棄物埋立地の目に見えない部分、たとえば防水シートが大きく損壊したところは少なくない筈である(註7)。
廃棄物由来の汚染物質は今でも漏出しているのではないか。
しかしそうした報告は聞かない。
5市のうち被災市は、過去の被害と対策を明示した上で、放射性核種と放射線という新たな汚染要素を含んだ今回のがれき受け入れの方針を示すべきである。

 さて山梨県は焼却だけ行ない灰は県外搬出しようとしているし(註8)、愛知県は中部電力火力発電所名古屋港管理組合に焼却施設と処分地を、トヨタ自動車田原工場の敷地に焼却灰処分地を、つくりたい意向だ(註9)。
いずれの県も、処分の困難さを認識し、彼らなりの態度を決めたと理解される。
 新潟県農林水産業が産業の中核となっている。
生産基盤たる水や土の清浄さが不断の努力をもって確保されなくては生産物に対する安全性・信頼性は維持・向上できない。
いったん放射線核種に汚染されたら、「基準以下だから、わずかな量だから、安全です」では取り返しがつかない。
 既存の埋立地に、震災がれきの焼却灰を捨てることに、筆者は賛成できない。
災害がれきの取扱い・撤去は被災地にとって焦眉の急であり、積極的に受け入れたいところだが、善意がよい結果をもたらすとは限らない。
もう少しよく考え慎重に進めたい。

以上

1)例えば3月20日新潟日報。3月21日朝日新聞。 
3)水分を75%、固形物中の有機物量を75%とすると、焼却によってそれぞれ体積は4分の1になり、総計16分の1になる。1×(1-0.75)×(1-0.25)= 0.0625、1÷0.0625=16 
4)とりあえず15〜30倍を考えればよいだろう。2の文献、14頁。
5)医薬品は基準項目にないので、行政的には全く問題にならない。ここでは埋立地からの漏出がありうることを問題にしている。
6)2010年5月23日朝日新聞(佐渡市真野)。1997年6月27日新潟日報(これは小木町)。一般廃棄物処分場に関する報道は限られている。
7)中越地震の際、調査をしたが、十分な情報は得られなかった。しかし調べて分かったことは、「平成16年新潟県中越地震被害調査報告書」、土木学会刊、494-506頁、2005年、で述べた。
8)3月16日、朝日新聞電子版。
9)3月20日・24日、朝日新聞電子版。
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