東村に移住:「お金より命」に共感 元カフェオーナー・根本きこさん(毎日新聞)

神奈川県逗子市でカフェを経営し、フードコーディネーターとして活躍、食や暮らしに関する著書やエッセーも多数ある根本きこさん(37)は去年3月、東村に家族で移住した。川のせせらぎと鳥のさえずり、風が樹木を揺らす音に包まれた日々の暮らしや、今思うことについて話を聞いた。

 <カフェは遠方から来るファンもおり閉店を惜しむ声も多かった。移住は勇気がいる決断だったのでは>

 3月11日、福島第1原発が爆発したと聞いて「逃げなきゃ」と思い避難することを決めた。事故前から原発に関心があった。原子炉に必要な核燃料「ウラン」を採掘している海外の一部の地域は、小児がん白血病の罹患(りかん)率が高いと知り、5年ほど前から「人に優しいエネルギーではないな」と感じていた。

 カフェでは、なるべく安全な食材やフェアトレード商品などを扱っていた。事故後、水道水からヨウ素が検出され、今までとは違って野菜や水を西日本から取り寄せるとなると、コストが上がり店は続けられないなと。ならば自分たちで農産物を作ろうと思い、縁あって東村に来た。

 ハーブさえ育てたことがないのだが(笑)、農業に詳しい知人らに助けられながらジャガイモ、ニンジン、大根、絹さやなど種類だけは豊富に夫と農作業に取り組んでいる。

 <テレビはなく川で衣類を洗い、ニワトリが庭を歩き回る。目指す暮らしとは>

 ここへ来て人と会わない日もあれば、アスファルトさえ踏まない日もある。新しいことを始めることは、勇気がいることだが、すがすがしい気持ちでもある。

 モーイや島豆腐など、沖縄の食べ物はおいしい。うりずん豆はフリッターにすると美味。沖縄の野菜は今後もっと必要とされる。

 神奈川にいた時、2年ほど地域通貨に取り組んでいたことがある。地域通貨の広がりには、1次産業が大事。1次産業が活性化されれば、活路は開けるのではと思い、今友人らと「かわいい野良着を作ろう」と盛り上がっている(笑)。

 食べ物はお金の代わりになる。農業と医療さえしっかりしていれば、お金はいらないかもしれない。

 <福島県生まれで、育ちは栃木県。今も親戚が福島に住む。原発に頼らない電力にも関心を寄せる>

 生活や仕事を考えると避難したくてもできない、ということはよく分かり、心が痛い。それ故に思考停止状態になっている人も多いと思う。きちんと国が補償したり、東電の資産を分配したりといったことはできないのだろうか。

 大量発電ではなく、送電線を分割してその土地にあった風力、水力、太陽光などの発電方法がないか、知恵を絞ることが大事。

 高江の米軍ヘリパッド建設反対で、座り込みをしている人たちに時々差し入れを持っていくが、「お金より命」という当たり前の考え方に共感する。

 <沖縄に避難してきた人たちなどでつくる、食の安全を考える団体「ティダノワ」のメンバーでもある>

 まずは知ることから始めようと、内部被ばくの勉強会を開いている。来る3月11日に、歌手のUA(うーあ)らを中心に名護市の21世紀の森公園でイベントを開催する。多くの人に被災地や食について関心を持ってほしい。

(聞き手 知花亜美)

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 ねもと・きこ 1974年生まれ。2003年逗子市に「coya」を開業。カフェブームの先駆けに。11年3月閉店し、東村に夫と子ども2人で移住。雑誌にエッセーを連載、著書「おとな時間」など多数。

琉球新報

2012年2月2日
http://bit.ly/w4i6xh